THE SHAMPOO HAT『沼袋十人斬り』@下北沢スズナリ

NHK学園という通信制の学校に通っている、介護福祉士の資格(正しくはその国家試験を受けられる資格、を得るため)に。
自宅でリポートを作成して提出、という形だから仕事を持っていても余暇の時間で学習は出来る、が、年に二回スクーリングがある。
それで土日に国立へ行くことになった。くにたち、こんなことがないかぎり縁のなかった土地では?
そして自費泊まりがけで、東京。といえば芝居かライブに隙間時間で行けるのでは・・・と一度思ったらば止まれない。
開場時間を見るにエレカシ野音は無理ですなぁ。悲。
色々調べて行き当たったのがこの公演。『立川ドライブ』が面白かったから、チケット取るのは迷わなかった。
もともとは篠井さんを『欲望という名の電車』でもう、なんて良いの!と思って、そのあと三軒茶屋婦人会の『ウドンゲ』にも行ったのだ。
ベニサンのあの倉庫のような独特な感じを思い出すなあ(寂しい)。ウドンゲは地味?というとなんて自分に語彙がないのだとも思うけど、
地味ななかにも滋味(しゃれでなく)があって、すごーく面白かったし胸に残った作品。家に帰って私鉄沿線のことをお母さんに訊きました;
脚本は赤堀さん。それで私は、THE SHAMPOO HATの本公演『立川ドライブ』に行ったのだった。ナイロンで、坂井真紀さんの演技良い!とも思っていたし。作品は勿論面白かったのだ。が、私がトラムで観たその日は、秋葉原であの事件があった日だった。
今でも、なによりそのことを一番に思い出してしまう。帰るために通った渋谷のハチ公前で号外が配られていたが一枚も取れなくて、
女の人二人連れに「ちょっと見せて下さい」と言って、なんとか記事を見た。通り魔殺人。誰でも良かった?そのときの恐怖。
絶対忘れられない。誰でも良かった、というのは私でも良かったということだ。吐き気がした。

◆今作冒頭「沼袋十人斬り、怖いねえ」とパチンコ店の外で並ぶ男が言う。
これはタガーナイフを振りかざす通り魔と、その犯人をなりゆきで追うことになったおっさん三人の物語だ。
赤堀さんは秋葉原の事件をこの作品に落とし込んだが、犯人を主人公にしなかった。それがこの戯作を生かしていると思う。
なんでこんなことするのかたいしたバックボーン、あるわきゃないし。そこは語らない。それはだって、物語りにならない。
逃げんとする犯人の焦燥や彼の生活周辺の(家族含む)ものすごく不毛な感じ、自分優先の世界にはまり込んで狂っている人を目の前にする恐怖、
話通じなさすぎる戦慄を上手く演出する赤堀さんはすごい。それだけで観る価値のある芝居だと思えた。
しかもおっさん三人がものすごく笑えるのだった。
別府と星が「三年目の浮気」を歌うシーンなんぞ、笑いすぎて泣いたわ!赤堀さんって劇中で歌わせるの好きだよね。
赤堀さん演じた別府もいいけど星広美(男です)演じた児玉さんがすっごく良かった。いい顔してんのよねー。すっかりファンだ。
星の名台詞としては「女子高生は大事にしなくちゃ!」でしょう;
シリアスな場面では、通り魔が主婦のいる家に入り込んでしまうところ。
主婦が盲目であることが、観ている始めは全く気がつかず、途中でまるでシックスセンスのように「ああ!」と膝打つことになった。
最も演出が冴えたシーンだったと思う。
◆おっさん等、ダメな感じで負け犬人生、なのに実は自分をイケてるって思えてて、「俺の人生はマンガ以下かー」って言いながらも絶望して人を殺すことはしない。
不器用なのに割としたたかかも。それは友情(笑)があるからか。笑いに笑ったのに、最後の場面で父の骨壺を抱えた葬儀帰りの別府が、「ちょっとだけ俺を抱きしめてくれ」
と言うと迷い無く抱きよせた星にグッときてしまいましたわ。
このおっさんシリーズ続編求ム。