ポツドール『愛の渦』@新宿シアタートップス

ポツドールを観るときはいつも、席に着いて待ってる間にあの例によって恐ろしい客入れの音楽がズンズン流れていて、
幕が開く前にもう「家に帰りたい」と切実に思う。冷や汗が出る。
わざわざお金払って遠くから来てるのに、直前までそう思う。イマなら逃げれるで、と。マジで。芝居は娯楽なのに、パニックになりかける。
なんせ、『激情』の再演を本多で観たとき、主人公を含む二人の登場人物の人権が同時進行で侵害されていく、
凄まじく身が凍る一番最後のシーンで、描写のリアルさ/過酷さに思わず芝居であることを忘れて、叫びだしたくなったんだもの。
拍手なんて出来ない(というよりまあ、そういうカーテンコールに代表される演じ手と観客との馴れ合いを三浦さんは一切除外したいんだろう)。
うぅ、つうかさあ、いままで私が観てきた演劇って一体何?
そして今観たこれは何??どぎついブラックコメディ?
・・・絶対違うわ。
よろよろ席を立って帰ったのを覚えている。
凄い凄い凄い。うわー、「してやられた」。でも、胃がズキズキして、き、気持ち悪い・・・なんとか宿に着いてもその夜は寝付けなかった。
そういえば本多劇場から捌けるとき、後ろの男の人が「なんか俺、傷ついちゃったよ」とぽつりと言っていた。私もそうだったので今もよく覚えている。
別の人は「登場人物全員並べて説教してやりたい」と言っていた。ふーん。こういう奴、ちっちゃえというか俺様的、偉そうで嫌いだわと思った。
発想がマッチョで。むしろこっちのヒトはポツドールで出てくる嫌な奴そのものかも。傷つく方が、マトモでしょ・・・
そう思ったそのとき、はっとした。
なんか個人的モラリティの限度の踏み絵なのかも、ポツドールの作品て。

だからポツドールについて語るとき私たちは己の内のモラリティの限界を知る。何を許せて、何を許せないのか。知らず知らずその線引きを露呈することになる

別の人のブログには「その日食べたものを終演後吐きそうになった」とあった。
まさしく同意見だった。特に『激情』はそうだろう。あのラストは酷いよ。

なーのにまた観にいっちゃう。なんでだろう。理由はひとつ。面白いから。
三浦さんは天才だと思う。粘着性のある天才演出家だと。
ぐさぐさくるけど面白いのがポツドール。友人知人と絶対一緒に観に行きたくないのがポツドール
本当は見終わったあと拍手をしたいポツドール
すべての役者さん美術照明そしてメイクさんに至るまで、全体でポツドールを作り上げている。その緻密さに頭が下がる。
そして薦め回るまでもなくその凄さは演劇好きに浸透している。

◆今作『愛の渦』は小品ではあるけど、まあ「うわきつい」シーンも結構あった。女優さんのあえぎシーンの長いこと長いこと。
むしろ最後は「ははーん。高度にセックスのおかしさを表現してんのか」と思って慣れていた自分怖いわ。
行為を見せるのでなし(最後ジュンリーのシーン除く)に、声だけをえんえんこれでもかと聴かせ続ける鬼演出。
客としてまったくどうしていいか分かりません。ただもう前を見ているしかない。
三浦さんは鬼だ。
「人間だって動物だろ?」「けだものだもの」こんな風に誰かに耳打ちされるような嫌な感じ・・


冒頭のユーロビートが全開で鳴っていて登場人物の声は一切聞こえないシーンの演出がすごくて
台詞の力は機能せず、仕草、主に板の上の役者同士の視線の絡み合いだけで雰囲気を作り上げる演出手腕が天才的。
ホント、「動線の処理が上手い」というか、そういった演出を他で観たことが一切無いので、観ていて興奮した。
視線には欲望恐れ苛だち、諸々の感情がありありと表れる。下世話な程に。。。
ほんの少しでも見逃したくなかった。
(でもこれが全編だったらヤダなーとも思ったから「アニマル」を観た(耐えた?)人はすごいなと。)

勿論これは演出に耐えた役者たちの功績でもある。誰も死なないし、無理に体を傷つけられることはほぼないのに、心がマジ凍る、そういったものの連続。
待望の今回初?パンフレットの対談によると、三浦さんから「雰囲気が壊れてんだよ」というどうしようもないダメ出しが過去の本番中にあったとか。
これってすごい。台詞を聞かせるのでないから台詞の力に頼れない(というか聞かせたい台詞なんて無いと断言までしている。)
視線や仕草を使って登場人物全員であの気まずい雰囲気を「作り上げている」のだからして。
こういう演劇スタイルを使っている人はそういない。だいたい、一度雰囲気壊れてるのってどうやって直すの??
しかも普通の雰囲気じゃないんだよ。客の精神状況までがつんと落とす最悪な状況を(演技ですけど)作ってるんだから。
素人には全くわかんない過酷!し、しぬるよ。おれんたなら。。。
果てしない集中力が求められる。すべてを投げうって臨む。そんな役者さん達の生々しい証言が読める愛の渦公演パンフは、今回買えて嬉しかった。
というかどういうことを考えて過酷な演技をしているのか少し分かって、ほっとした程だ。

◆初演で安藤さんが演じた役を今回やったジュンリーが今作での個人的ベストアクターかと思うが、まあポツドール作品は「その公演において板の上にいる全員でポツドール」だから。ってこれは勝手に思ってるんですが;
つまりみんな凄い良かった。ってことです。観る前あんなに家帰りたいって思ったくせに終わったら、ぐわっもう1回観たい、そう思っていた。怖いよ。