the HIATUS 『Trash We'd Love』

あなたに畏怖を感じる。

Trash We’d Love

Trash We’d Love

◆スパンコールのミニドレスを着て歌っていた細美武士が私のヒーローになるのに時間はかからなかった。
否、惹きつけられた理由は彼ひとりではない、何よりメンバー4人が一丸となって生み出した音の塊がテレビから噴き出してくるようだったから。
「着てるもの、目に見えているものなんて実はどうでもいいんだぜ。今ここにある音をお前は感じられるか?」と言わんばかりの熱量で演奏された『Space Sonic』のクリップを見て衝撃を受けた私はCDショップにシングルを買いに走った。

歌詞は非常にシリアスで、読んでからクリップをもう一度見てみると混乱した。
ELLEGARDENというバンドが私の頭に入り込んできた瞬間だ。
後追いで既出のアルバムを買い、その年末にはCDJフェスで彼ら4人を目撃した。
『Marry me』で銀テープが舞って、どうしようもない泣き虫ソングなのに場内が沸騰したように盛り上がって、私も跳び上がった。
そしたら慣れないギチギチの場内で前の人に足の爪を思いっきり踏まれた。
足の爪は黒ずんでなかなか消え去らなかったがなぜか見るたび愛しかった。
CDJでは、他に、『風の日』という名曲を知った。
◆実際にあったことのない彼らが、リリースされたDVD映像を見るかぎり、身近な人に思える。
それは錯覚に過ぎないのに。なんだかありえないほど好きになってしまっていた。
「俺は気に入ったものがあればずっとそれでいいんだ。俺たちにはお前らしか要らないから。よろしく!」
「(ライブハウス内でなにか事故が起きたとしても)そのときは俺たちがいなくなるだけだから」
何だ。そんな発言して。全幅の信頼をオーディエンスに置いている。もう、置きすぎな程だ。初めて見た、そんなバンド。
笑ってしまうほど感動した。
ELLEGARDENというバンドは、物語だった。結末を誰も知らないけど、皆をも巻き込んで転がっていく、今だって現在進行形の物語だ。
◆活動休止前のライブは、夏のフェスで見た。そのときも細美さんは「取り繕ってもどうせボロが出る。俺たちはそのまんまやるからな」なんて、またもや名言を吐いていたっけ。『金星』を聴くと今もあのライブの時が蘇ってくるよ、どーしても。そして、花火も。
◆JAPANのインタビューでも、いつも細美さんの言葉は嘘がなく、表現者としてソリッドで、何だか蛍光ペンでラインを引きたくなる言葉をたくさん残してくれる。
HIATUSは音源が手元にない状態でインタビュー(JAPAN6月号)を読んだ。
「なにもなかったらやらないですよ、っていうかできない、こんなことは」
の部分がやたらそれこそ矢が刺さったかのように心臓にズンときてみるみるうちに涙が出てきた。
◆発売日から三日たってCDを買いに行った。一音をも漏らさぬよう眉根に皺を寄せて聴いていたがあっというまにラストの曲になっていた。いやそれは嘘で、実際には一曲ごとにCDをいちいち止めて、あまりの凄さにため息をついていた。
ドキドキしすぎて聴いている間ゆっくり息が出来ないのだ。
山崎編集長は傑作だという。聴き終えた今、しかし私はこれを問題作だとあえて言いたい。
聴けば聴くほどわからない。美しいが、怖い、すごく怖い。畏怖という意味で、だ。
これを聴かないで一生を過ごす自分を想像したらぞっとした。そういう意味での「問題作」。
私たちも知っているけど行くには途方もない「あの場所」に細美さんは自らの全神経を束ね上げて「アクセス」し、音楽と言葉を「掴み取って」わたしたちの目と耳に分かるものとして、今ここに提示している。これはそういうアルバムだ。
褒め言葉にはならないのは分かっているけど、想像を絶する。だからこわいのだ。圧倒される。
生半可な気持ちでは聴けない名盤。