NODA・MAP 第14回公演『パイパー』

パイパー。笛をふくもの。遠くより我らを呼ぶものたち。
ヒトが使い尽くした荒涼たる世界の淵に立って、侵略者である筈の私たちを静に見つめているものたち――。

火星に水があるというニュースをテレビで見たとき、「わたしたちはどこまで使えるモノを使い尽くしてゆくつもりなのか?」
と私は思ったのだった。使い尽くす。恐ろしい言葉に思えた。
そう、今作の舞台は火星である。
いやあもう舞台美術が素晴らしかった。
衣装照明音楽全てが。完璧だった。
役者もすべて良かった。
りえさん松さん、とっても良かった。姉妹感、って言葉があるかしらんが、この2大女優の呼応性が今作の肝だった。
謎のクリーチャー、火星人パイパーを生み出したコンドルズの面々も、もんのすごく素晴らしかった。
出来たらもう一度見たい。
パイパーの動きをつぶさに見届けたいなあ。

人生初野田作品。ほんと掛け値なしの傑作を体感できて幸せです。立ち見のお客さんもそりゃ居ますわよな面白さ!

◆「使い尽くして生き尽くす」というフォボスの言葉が胸に刺さっている。
りえさんは天才的にフォボスになりきっていた。声、枯れているなと思ったけど出せるのですね、ああいう太さのものを。
やさぐれ感のある役には合ってた。

◆大倉さん、もう〜カワイイ。ごめんカワイイ。頭の良い子役ってなんかもうナイスエイジ以来のハマリ役だよ。するいやん。
でもきっとあの動きだ。ノダマップで活きている、あの長い手足が。パンフではああいってたけど流石、台詞全然噛んでないし(笑)

圧倒的アンサンブルの力。火星はもうおしまいだと言われ、
金星への移送船に争って乗り込まんとする群衆を生々しくも統制の取れた、目を見張る地獄として
具現して魅せたあのシーンが忘れられない。
パイパーたちはただ黙々と火星を「0」へと戻す。悪行はヒトに還ってきたのだ。
ラフマニノフのピアノの調べ。狂気。血。絶望。阿鼻叫喚/ヒトガヒトデナクナル刹那・・・。

あなたの星が「0」になったら、隣の星を食べればいい・・・
地球を使い尽くして次は火星をこわして。その次は金星、そのまた次は――

しかし白眉は、宮沢りえ(4歳のフォボス)と松たか子(ダイモスの母)、ふたりの女優が手を取り合っての台詞の応酬だけで、「滅んで荒んで略奪された、彼らにとっての母星」火星を表したシーンだろう。
圧巻だった。言葉だけ。それだけで廃墟が生まれた。
涙は出なかった。手が震えていた。
芝居を見ていてこんな風になったのは初めてだった。

◆野田さんはこの作品を「始まってもいない(火星移住という近未来の)話が終わっていく」ということへの面白みから書き始めたと言っていた。
作中にあった「ヒトをヒトたらしめているものはなにか」「今のこの荒みきった世界で子を孕み産み育てることが本当に必要なのか?」という
問いかけが胸に痛い。現代を生きる者が対峙しなければならない命題だ。
だからこそなのか、ラストに淡い希望があった。
(まさかこんな淡い希望で終わるとは思って無くて、驚いた。)
生き尽くす、か。
わたしにも出来るだろうか。今日のこの日を忘れたくない。
もう五年くらいなら芝居見なくてもいいよ。
そのくらい、面白かった。

コンドルススキーならパンフも買いましょう。左端の近藤さんカワユス。以上!